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エバーグレーズの悲劇

2009年12月29日 23:42

晴れ
今日は1972年(昭和47年)12月29日に起こった、イースタン航空401便墜落事故のお話です。
イースタン航空のL-1011-1型機「トライスター」 ← イースタン航空のトライスター
   (同型機)

米東部時間の1972年12月29日21時20分ころ、ニューヨークのジョン・F・ケネディ国際空港を離陸した1機の旅客機がありました。イースタン航空401便(ロッキードL-1011-1型機、通称『トライスター』、機体番号:N310EA)は、フロリダ州のマイアミ国際空港に向けて順調に飛行、降下を開始しました。
機長(CAP)は飛行時間29,000時間以上のボブ・ロフト(55歳)で、副操縦士(COP)の昇格実習のため副操縦席に座り、補佐や通信を担当。COPのアルバート・ストックスティル(39歳)は機長席に座り、操縦を担当していました。
この他に航空機関士(F/E)のドナルド・ディポ、L-1011-1 トライスターは就航したばかりだったので、ロッキード社から派遣された技術者のアンジェロ・ドナディオもコックピットにいました。

ロフト機長(以下、CAP)が着陸脚(ランディング・ギア)を降ろす操作をしたところ、前脚(ノーズ・ギア)が出ている事を示す緑色ランプが点灯していませんでした。機長は直ちにマイアミの管制官着陸復航(ゴー・アラウンド)を告げ、マイアミの管制官(便宜上MIA)も了承して2,000フィート(約600m)まで上昇するよう指示します。ストックスティル副操縦士(以下、COP)は指示された高度まで機体を上昇させると、自動操縦装置(オートパイロット)を「着陸復航」モードにセットしました。
CAPディポ機関士(以下、F/E)にコックピットにあるハッチから前脚が出ているかどうか確認するよう命じます。ドナディオもハッチに入り、前脚が出ている事を確認します。
原因は緑色ランプの故障でした。

そして、ここから歯車が狂い始めたのです・・・
ご意見、ご感想はこちらへどうぞ!
前脚装置の故障ではない事が判明したので、安心したCAPCOPは、なんと二人掛りで緑色ランプの交換作業を始めたのです!本来、旅客機の操縦士CAPCOPのどちらかが、もう一人の行う操縦や、自機の飛行状態を監視していなければならないはずなんです。
二人には自動操縦装置に対する過信があったのでしょうか?

しかし二人が信頼していた自動操縦装置は解除されてしまいました。
自動操縦装置は、操縦桿を一定以上動かすと、自動的に解除されるシステムになっています。飛行中、突発的な事態に見舞われた場合、一々スイッチ類を操作していては間に合いませんから、その対策なのです。
CAPCOPのどちらかは判りませんが、二人のうち、どちらか ――たぶんCAPと推定されています―― がハッチを覗き込んだ時か、緑色ランプの交換作業中に操縦桿を動かしてしまったので、自動操縦装置は解除され、イースタン401便は降下を始めます。
安全の為に設定されていた、進入限界高度の1,750フィート(標高。約525m)を割り込むと鳴るようになっていた警報音も、二人の耳には届きませんでした。

他の旅客機の管制に忙殺されていたMIAは、イースタン401便の高度が下がり過ぎている事に気付き、「イースタン401、何かあったのか?」と呼び掛けます。
これに対してCAPは「全て順調。イースタン401は、着陸コースに戻るための先回準備OK」と言っています。
CAPたちは自動操縦装置のお蔭で、飛行高度は保たれていると思い込んでいたので、MIAの問いかけは、前脚など、別の事だと思っていたようです。ここでMIAがはっきりと高度を確認するように指示すれば良かったのですが、MIAはそのまま旋回の許可を与えてしまいました。
この時点でイースタン401便は高度300フィート(約90m)であり、降下率は1,500フィート/分(約450m/分)と、かなり過大な降下をしていたのです。これが少しでも街の灯かりがある場所なら、パイロットたちもすぐに高度の異常に気付いたかも知れません。
しかし、真っ暗な湿地帯では確認のしようもありません・・・

左旋回を始めた直後、COPが、やっと高度の異常に気付きました。
COP:高度がおかしい。
CAP:何?
COP:ちゃんと2,000フィートになっていないみたいだ。
CAP:おい!これはどうなっているんだ?
CAPが叫んだ後にCVR(コックピット・ボイス・レコーダー:Cockpit Voice Recorder)に録音されていたのは、衝撃音だけでした――
マイアミの西方に広がる広大なエバーグレーズ国立公園の湿地に左主翼の翼端が接触して、左主翼が吹っ飛んだイースタン401便がバラバラになるまで数秒しか掛からなかった事でしょう。

イースタン401便には乗員13名、乗客163名、合計176名が搭乗していました。
事故の衝撃などで99名が死亡、77名が重軽傷を負いました。その後重傷者4名が歿ったので、死者は103名になりました。
こう言っては何ですが、乗員乗客が全員死亡してもおかしくはない事故でしたが、墜落現場が広大な湿地帯だった事で、墜落時の衝撃が緩和されたと考えられています。
また、墜落角度が浅かった事や、大規模な火災が発生しなかった事、L-1011-1型機が構造的に機体下部が頑強に造られていた事などの幸運もありました。
しかし真夜中の湿地帯に投げ出された乗客たちは、エバーグレーズに棲息するワニ(アリゲーター科)の恐怖に怯えながら救助を待っていたといいます。

皮肉にもコックピット下の狭いハッチ内にいた技術者のドナディオは生き残り、事故の衝撃的な事実を証言しました。彼の証言は、回収されたCVRFDR(フライト・データ・レコーダー:Flight Data Recorder)が裏付けています。

実はこの事故は、パイロットたちのミスだけではありませんでした。
後から判明したのですが、本来L-1011型機は高度2,500フィート(約750m)を割り込んだ場合、警報音と赤ランプが250フィート(約75m)毎に警告するシステムでした。
ところがイースタン航空トライスターは、高度を割り込んだ場合、警報音だけで知らせるように仕様変更されていました。
理由は「着陸態勢に入ってから、パイロットが余計な混乱をしない為」です。

ところが管制官はそんな事は知りません。
だから500フィート(約150m)低い2,000フィート(約600m)での着陸復航を承認したのです。
この為に警報音は1回しか鳴らず、交換作業に夢中だった二人の耳には届かなかったらしいのです。
大脳の感覚野の支配率を示す図を思い出して下さい。
視覚と聴覚は、ほぼ同等です。そして片方の感覚器官に支配されると、もう片方の感覚器官がほぼ無効化される事は、携帯電話で通話中の交通事故が如実に物語っています。

本来、パイロットたちは相互監視をしていなければなりません。
これを怠った二人の責任は重大でした。
しかし、何処かで破局(大事故)に至る連鎖は断ち切れたはずです。

イースタン401便側
1.前輪が出ているのが確認出来れば、機長は着陸後に整備を要請すれば良かった。
2.電球の交換作業を行う場合は、技術者とペアで航空機関士または副操縦士、あるいは機長が行ない、もう一人のパイロットは飛行状態を監視していれば良かった。

管制官側
1.複数で定期的にレーダーを確認して、申し送りしていれば良かった。
2.曖昧な呼びかけをしなければ良かった(はっきり高度を指摘する)。

イースタン航空側
50フィート(約75m)毎に警告するシステムの仕様変更を要求しなければ良かった。

ロッキード社側
顧客の要望とはいえ、安全装置である。
取り付けてある理由を説明して理解を求め、50フィート(約75m)毎に警告するシステムを変更しなければ良かった。

これらのどれかが、破局への連鎖を断ち切る要因だったはずです。

結果に対してしか回答を見い出せないのが事故調査であり、大部分は推定です。
しかし、教訓として活かす事は出来るはずです。
でも、残念ながら、いくつかの要因は、今日まで繰り返されていて、小事故(インシデント)から大事故(アクシデント)として報告されているのです。

なお、回収された機長の遺体を解剖した結果、かなり進行した脳腫瘍が発見されました。
脳腫瘍は視界を狭める、といいます。
これも事故の要因だったのかも知れませんが、あくまでも間接的な要因ですね。

イースタン航空は初めてL-1011 トライスターを導入した航空会社、所謂「ローンチカスタマー」でした。
その後は米国内の航空自由化などで業績が悪化、この事故も含めて数回の事故もあって、利用客も伸び悩みます。そして1991年(平成3年)1月、湾岸戦争の煽りで、遂にイースタン航空は経営破綻、倒産してしまいました。
「エバーグレーズの死者が祟ったんだ」という、ミステリーじみた噂話もありますが・・・

参考:
※この記事は書きかけです。タイトルや内容その他が変更される可能性があります。
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